2009年9月18日
日本スポーツ法学会第17回大会アピール
スポーツ基本法立法とスポーツ権の確立を求める!
スポーツは、一つの文化であり、明るく豊かで活力に満ちた社会の形成や個々人の心身の健全な発達に必要不可欠なものとなっています。人々が生涯にわたってスポーツに親しむことは大きな意義を有しています。かかる意義を有するスポーツを楽しむ権利、すなわちスポーツ権は、憲法上明記されていませんが、憲法13条、25条、26条などから、自由権的性格・人格権的性格・社会権的性格を有する基本的人権として保障されていると解されています。
国際的には、すでに1970年代半ばからヨーロッパ諸国で、ヨーロッパ・みんなのスポーツ憲章やその後の新ヨーロッパ・スポーツ憲章において、その権利生が明記され、そしてユネスコの「体育・スポーツ国際憲章(1978)」でも、「体育・スポーツの実践はすべての人にとって基本的権利である。」と謳われています。さらに、オリンピック憲章の根本原則においても、「スポーツを行うことは人権のひとつである。・・・」とされています。
本日、日本スポーツ法学会は、スポーツ基本法の立法を求め、スポーツ権について、以下の事項を、本大会参加者の総意をもって確認したいと思います。
1 スポーツの多様な価値を再認識すること
スポーツは、国民の文化、教育、健康、社会生活にとっての基本的な要因として寄与してきました。国民が自由な人格を形成し、健康で文化的な生活を営み、余暇を過ごすために、スポーツには、重要な役割が期待されています。すなわち、スポーツは、人生をより豊かにし、充実したものにするとともに、人間の身体的・精神的な欲求にこたえる世界共通の人類の文化の一つです。心身の両面に影響を与える文化としてのスポーツは、明るく豊かで活力に満ちた社会の形成や個々人の心身の健全な発達に必要不可欠なものであり、人々が生涯にわたってスポーツを楽しむことは、大きな意義を有しています。
さらに、スポーツには、社会的にも、青少年の自己責任、克己心やフェアプレイの精神を培い、また、仲間や指導者との交流を通じてコミュニケーション能力を育成し、豊かな心と他人に対する思いやりの心をはぐくむという意義、スポーツを通じて住民が交流を深めることにより地域の新たな連携が促進され、活力が醸成されることにより地域における連帯感が醸成されるという意義、言語や生活習慣の違いを超え、世界の人々との相互の理解や認識を深めることにより国際的な友好と親善に資するという意義など、多種多様な意義を有しています。このような多種多様な意義を有する文化としてのスポーツは、現代社会に生きるすべての人々にとって欠くことのできないものです。
スポーツにはこうした多様で重要な価値がある人々の権利であることを再認識すべきです。
2 すべての国民にスポーツ権が保障されていること
スポーツ権の保障は、まずもって、国民が自らの幸福を追求するための権利として保障されなければなりません。すなわち、スポーツ権は、単にスポーツをする人の権利にとどまらず、スポーツに参加するもの、すなわちスポーツをするもの、スポーツを見るもの、スポーツを支えるもの、すべての自律的な活動を保障することが不可欠なのです。その為にも現代社会に新たな「スポーツ基本法」という基本的な権利を定める法律が立法される必要があります。
3 スポーツにおける法の支配を徹底すること
スポーツ権の保護・発展のためには、国、地方公共団体、各種スポーツ団体およびスポーツに参加するすべてのものが相互に協力する必要があり、そのために必要な措置が講じられなければなりません。
これを実現するのが法律ですが、かかる法律は、単にスポーツの振興を定めるものとするのではなく、かかる法律によって、従来ありがちな、スポーツにおける封建的・権威的な残滓残す人的・恣意的な支配を廃し、日本国憲法の精神にのっとった民主的な法の支配、すなわちスポーツにおける自由・正義・公正の実現を徹底させていく必要があります。
4 スポーツ権の確立のために
以上に述べたことは至極当然のことではないでしょうか。
しかしながら、実際のスポーツ紛争においては、残念ながら、必ずしもスポーツ権の保障が全うされているとはいえません。そこで、スポーツ権の保障を全うさせるためには、様々なスポーツ競技団体内部の規則も含め、アンチ・ドーピングやスポーツ紛争解決機関(ADR)の手続きなどスポーツ関連の法規、特に、新たに立法される「スポーツ基本法」においてスポーツ権を明記し、これを保障するための制度を整備することで、スポーツ権の確立を図っていく必要があるのです。
日本スポーツ法学会は、新たな「スポーツ基本法」立法とスポーツ権の確立のために、本日、ここに参加された皆さまをはじめ、志を同じくする皆さまと共に、本大会で確認された上記の事項の実現のため、全力を尽くす決意を表明し、ここに本アピールの採択を提案いたします。