第10回大会報告

(一部工事中)


 平成14年12月14日(土)、早稲田大学国際会議場において、日本スポーツ法学会第10回大会が開催された。

 大会テーマは「スポーツ法と文化−スポーツと女性」で、自由研究発表、総会、記念講演、シンポジウムが行われた。


1、自由研究発表

 諏訪伸夫、佐藤千春両会員による司会の下、四題の発表が行われた。

 齋藤健司会員(神戸大学)は、「フランスにおけるスポーツ調停制度の展開」について、第九回大会発表を継続発展させ、実際にフランスでスポーツ調停制度がどのような展開をされてきたかついて報告した。特に、フランスではスポーツ紛争処理が裁判所主導のスポーツ仲介または調停、スポーツ組織の内部規則に基づく調停機関による調停、スポーツ仲裁裁判所による調停、一九八四年法による強制調停の制度的構造が形成されていることを紹介したあと、スポーツ調停の具体的事例を上げ、スポーツ調停の特殊性、有効性及び課題について報告した。
 森浩寿会員(日本大学)は、「オーストラリアスポーツにおける団体の法人制度の展開」について、同国のスポーツ競技団体の多くが保証有限会社、あるいは各州社団法人法に基づいた非営利社団法人の形式を採用していることを紹介した。それによると各州の非営利社団法人法の特色として日本のNPO法で規定される定款(一一条)にはない内部紛争処理制度が整備されており、しかも非営利・公益段谷公益団体に免税措置が採られ、収益事業解釈も広くなされる結果、オーストラリアオリンピック委員会は、国の補助金に全面的に頼ることなく、ライセンス事業やスポンサーシップなどを通じた資金調達ができていることを紹介した。
 森克己会員(鹿屋体育大学)は、「イギリスにおけるドーピングの法的規制に関する一考察」について、イギリススポーツ法学研究の代表的なジョン・オーラリーの論稿‘The Legal Regulation of Dopig’を基に報告を行った。それによると家父長的主義的法学の見地から、ドーピングだけが禁止されるべきだとする考え方は正当化できない、パフォーマンスを高める薬物の摂取は統制団体との契約違反であり「詐欺」にあたる、現行の統制団体によるドーピング規定には、厳格責任規定など近代法の原則と相容れない内容の規定が置かれており、また、禁止リスト方式によるドーピングの防止には限界がある、ドーピングの解決策として、調和、犯罪化、緩和が考えられるが、最も有益なのは緩和である、というものであった。
 平井千貴会員(総合スポーツ研究所)は、「事故予防かの側面からみたアスレティックトレーナー」について、教育制度・国家資格ともに確立しているアメリカのアスレティックトレーナー制度とその業務及び日本の現状について報告した。アメリカのアスレティックトレーナーはスポーツ傷害の予防、認知・評価を行い、傷害に対する救急・応急措置、リハビリ、リコンディショニングを担うものであり、その組織作りと管理、専門職としての責務が課せられている。しかも、これらはすべて事故予防と早期回復に関係することであるとした上で日本のスポーツ事故でアスレティックトレーナーがいれば防げた事故事例を紹介し、日本においても早急にアスレティックトレーナー制度の整備を提言した。 

  
           自由研究発表者

2、総会

 齋藤健司(神戸大学)の司会により総会が開催された。

   
  小笠原会長の挨拶

 2002年度事業報告及ぴ2003年度事業計画案

 会費改定についての提案

 2002年度会計報告及び2003年度予算案


3、記念講演

 記念講演T  「日本のスポーツ法学10年を振り返って」 千葉正士 (東京都立大学)

  
     千葉正士博士

 記念講演U   「韓国スポーツ法の現状」延基榮 (韓国・東國大学校法科大学法学部長、韓国スポーツ法学会会長)

  
  延基榮 (韓国・東國大学校法科大学法学部長)

4、シンポジウム

 司会 山田二郎(東海大学)森川貞夫(日本体育大学) 
 
 今年度のシンポジウムは、「スポーツ法と文化−スポーツと女性」をテーマに、森川貞夫会員(日本体育大)、山田二郎会員(弁護士)の司会の下、白井久明会員(弁護士)、井上洋一会員(奈良女子大)、來田享子氏(愛知学泉大)、寒川恒夫会員(早稲田大)を報告者に迎えて行われた。

 白井久明会員は、「スポーツにおけるセクシャルハラスメント」と題して、セクハラの定義や、スポーツ界における問題、陸連がまとめたガイドラインなどについて報告された。そして、スポーツ界の体質そのものが変わらなければ、セクハラはなくならないだろう、という考えを示された。

 來田享子氏は、「女性のスポーツへの参加−歴史と現状」と題して、競技会への女性の参加に関して歴史的な視点から考察された。そして、男女のスポーツ参加の機会の均等の面では、一定の成果がみられるが、組織・資源配分等における男性支配構造はあまり変わっておらず、今後の課題であると指摘された。

 井上洋一会員は、「女性スポーツの平等機会とTitle ・」と題して、アメリカにおける女性スポーツの歴史的動向、Title ・の影響や今日までの展開等について報告された。Title ・の影響は、特に競技スポーツに大きく、高等学校の女子対校競技者数が制定前後五年間で約七倍になり、大学選手も増加したことなどが紹介された。

 寒川恒夫会員は、「伝統と女性差別」と題して、特に宗教上の男性観、女性観を中心に検討された。ユダヤ教の旧約聖書の中に男をたてる教えがあり、同様のことは、イスラム教、仏教にもみられると解説された。
そして、キリスト教では解釈の見直しが行われているが、仏教でも行われれば、日本でも影響が出てくるのではないかという見解を示された。
 

 
 討論では、陸連のガイドラインの評価や、指導者像、指導者・選手の意識の問題、組織の体質などについて活発な議論が交わされた。