第11回大会報告
平成14年12月13日(土)、早稲田大学国際会議場において、日本スポーツ法学会第11回大会が開催された。
1、自由研究発表
自由研究発表では、諏訪伸夫会員(筑波大学)と佐藤千春会員(朝日大学)の司会の下、四名の会員による報告が行われた。
小谷寛二会員(呉大学)は、「リスクの高い実習における安全配慮注意義務をめぐって〜大学卒業研究中の実習事故事例を中心にして」と題して、河川での事故防止の観点から、一つの事故事例をもとに指導者の注意義務について報告された。
水沢利栄会員(福井大学)は、「スポーツイベントにおける参加受付時の安全対策の子試み」と題して、大学を会場に実施した子どもたちが参加するスポーツイベントにおける安全対策の取り組みについて報告された。
森克己会員(鹿屋体育大学)は、「イギリス1998年人権法とスポーツ」と題して、1953年に発効したヨーロッパ人権条約を受けて1998年に制定されたイギリスの「人権法」がイギリス国内のスポーツの権利義務関係に及ぼす影響について報告された。
齋藤健司会員(神戸大学)は、「スポーツにおける階級分け決定および代表選抜に関する紛争の法的性質について〜フランスにおけるスポーツ訴訟およびスポーツ調停の事例を通して」と題して、フランスのスポーツにおける序列化をめぐる当事者関係や代表選抜の問題、それらに関する裁判管轄の問題などについて報告された。
質疑では、予定時間をオーバーするほど活発な議論が交わされた。
2、総会
総会が開催された。
小笠原会長の挨拶
2003年度事業報告及ぴ2004年度事業計画案
会費改定についての提案
2003年度会計報告及び2004年度予算案
3、基調講演
演者に佐藤由夫氏(日本自由時間スポーツ研究所)をお招きして、「地域スポーツクラブの育成と法〜日本と外国の比較、生涯スポーツ振興の立場から」と題する基調講演が行われた。
最初に、わが国の地域スポーツクラブ政策の変遷について、わが国にクラブが伝えられたのは明治維新後の外国人居留地であったこと、東京オリンピック後のママさんバレーや少年野球の発展にみられるスポーツの大衆化を受けて、1972年の保健体育審議会答申では教室、サークルの支援が謳われたこと、などと解説された。
そして、現在の総合型地域スポーツクラブ事業に関連して、1998年に制定された特定非営利活動促進法の問題、つまりスポーツクラブのNPO法人化について解説された。競技団体のような財団、社団という法人格はスポーツクラブには適さず、新しいものが必要であったこと、利点として、認証により法人格が取得できることや財産を持つことが可能、totoの助成を受けやすいといった点を挙げられた。
次に、比較対象としてドイツの制度について解説された。ドイツ民法の中には非営利法人の規定があり、スポーツクラブは社団(Verein)にあたり、中でも非営利社団、登記社団にあたること、設立には七名の構成要員が必要で、非営利であることなどを要件に、地区の裁判所への登記により認められること、などが紹介された。また、日本と異なり民法上で非営利法人について規定している背景として、社会における非営利活動の実態について説明された。特にスポーツクラブについては、地域社会の重要な構成要素であること、社交場であること、青少年の社会参加への指導的役割をもっていることなどが紹介された。
現在のドイツのクラブ数は約8万7千にのぼり、総会員数は国民の約28%にあたり、地域のクラブ以外を含めると、ドイツ国民の約33%が何らかのクラブに所属しているという統計が紹介された。今日に至る歴史的背景として、19世紀以降の出来事について解説されたが、ドイツでは、スポーツを楽しむ権利を与えられたのではなく、人々が獲得してきた点を強調された。その結果、1964年制定の「公的社団の権利に関する法令」により、一定の条件を満たすクラブにはさまざまな権利、優遇装置が与えられ、結果的に、その後クラブの会員数が増加していったと解説された。
次に、日独間のスポーツクラブの比較がなされた。伝統や歴史的背景に帰因するが、公益性や社会性の考え方が異なるため、遊び・スポーツに対する評価が異なること、その結果として社団の位置付けも異なっているのではないかという見解を示された。その他、ドイツではクラブ員全員が総会で投票権を持っている点などの違いを挙げ、地域とクラブの関係、クラブ員とクラブの関係の点で根本的な相違がみられると指摘された。
最後に、地域スポーツクラブの今後の課題について、遊び・スポーツに対する価値の再構築、クラブの社会性認知の深化などを挙げられ、非営利団体制度の見直しを前提にクラブの非営利法人化の拡大に期待を込められた。