スポーツにおける子どもの権利確立に関する提言

2020 年12 月19 日

「スポーツにおける子どもの権利確立に関する提言」の公表について

日本スポーツ法学会

当学会は、1997 年12 月20 日の「スポーツ基本法要綱案」1、において「すべて国民が、ひとしくスポーツに関する権利を有し」、「スポーツに参加するものは、すべて自由であり、つねに公正と安全が確保されなければならない」ことを示し、2009 年9 月18 日の日本スポーツ法学会第17 回大会アピール「スポーツ基本法立法とスポーツ権の確立を求める!」2においてスポーツ権を保障するためにスポーツ基本法の立法による具体的な制度構築の必要性を提言するなど、スポーツ権の確立に関して長年にわたり考究してきた。

また、当学会は、桜宮高校男子バスケットボール部主将自殺事件の発生を受けて、2013 年2 月14 日、理事会声明として「緊急アピール:スポーツから暴力・人権侵害行為を根絶するために」3を発表し、6 項目からなる提言を行った。この提言は、その後、同年4 月25 日に行われた公益財団法人日本体育協会、公益財団法人日本オリンピック委員会、公益財団法人日本障害者スポーツ協会、公益財団法人全国高等学校体育連盟及び公益財団法人日本中学校体育連盟の5 団体による「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」につながり、これを踏まえてスポーツ団体における相談窓口の設置などの対策が進められてきた。

わが国では、2019 年にラグビーのワールドカップが成功裡に開催され、2021 年には東京オリンピック・パラリンピック大会を控える中で、スポーツに対する国民の関心がこれまでにない高まりを見せている。しかしながら、体罰、暴力、ハラスメント、行き過ぎた指導、オーバーユースなどの問題は、未だに後を絶たない。とりわけ、スポーツの将来を担うべき子どものスポーツを行う環境の整備は十分とはいえず、見過ごすことのできない状況にある。日本における子どもへのスポーツ指導者による虐待の状況は、2020 年7月にヒューマン・ライツ・ウォッチが公表した報告書4でも指摘されており、この問題に対して誠実に対応することが国際的にも求められている。

ところで、「子どもの権利条約(Convention on the Rights of the Child)」は、子どもの基本的人権を保障する包括的な権利章典であり、子どもを大人とは別個独立の権利主体として位置づけ、成長過程での特別な保護や配慮が必要なひとりの人間としての権利などを定めている5。同条約は、前文と本文54 条から成り、子どもの「生きる権利」、「育つ権利」、「保護される権利」、「参加する権利」の実現を確保するための具体的な事項を規定している。しかしながら、同条約に規定されたこれらの子どもの諸権利に照らしたとき、スポーツを行う子どもにそのような権利が十分に実現しているとは言えないのがわが国の実情である6。

2018 年11 月、日本ユニセフ協会とユニセフ(国連児童基金)は、国内外の専門家等と作成したスポーツにおける子どもの権利課題に特化した文書「子どもの権利とスポーツの原則(Children’s Rights in Sport Principles)」(CRSP)を発表した。CRSP では、世界各地で、スポーツにおける暴力的な指導や子どもの心身の健康な発達を配慮しない過度なトレーニングなどが絶えない中、子どもの心身の健やかな成長発達を促す、遊びやスポーツが本来もつ力を再確認し、スポーツ団体、指導者、企業、学校、家庭、保護者などのスポーツ関係者のための行動指針を定めている。CRSP では、子どもの権利条約に規定された子どもの権利が、子どものスポーツにおける関係者の行動指針という形で示されたと考えることもできる。

このように、わが国において、子どもの権利の保障が国際的水準に照らして未だに不十分であり、スポーツにおける子どもの権利や子どもの快適なスポーツ環境が確保・実現されていない状況を踏まえ、当学会は、「子どものスポーツ権確立プロジェクト特別委員会」を設置して、スポーツにおける子どもの権利(子どものスポーツ権)確立のための提言策定に向けて検討を進めてきた。そして、このたび、同委員会が取りまとめた「スポーツにおける子どもの権利確立に関する提言」を2020 年12 月19 日の当学会総会において会員の総意として承認し、次のとおり公表する。

 

1 日本スポーツ法学会「スポーツ基本法要綱案」(http://jsla.gr.jp/archives/836)
2 日本スポーツ法学会「スポーツ基本法とスポーツ権の確立を求める!」(日本スポーツ法学会第17 回大会アピール)(http://jsla.gr.jp/archives/744)
3 日本スポーツ法学会「緊急アピール:スポーツから暴力・人権侵害行為を根絶するために」(http://jsla.gr.jp/archives/885)
4 ヒューマン・ライツ・ウォッチによる報告書『数えきれないほど叩かれて-日本のスポーツにおける子どもの虐待』(以下「HRW 報告書」と略)では、日本におけるスポーツ指導者による子どもへの虐待の状況が掲載されるとともに、アメリカのセーフ・スポーツセンターのような専門機関の設立など、具体的な提言が示された。
5 同条約は、1989 年11 月に、国連第44 回総会本会議において全会一致で採択され、日本も、1994 年4 月に批准承認するにいたった。同条約には、2020 年10 月現在、世界の196 か国・地域が加盟しており、国連での採択から30 年、日本の批准から25 年が経過している。
6 国連の子どもの権利委員会は、2019 年2 月に、日本政府の提出した第4・5 回報告書に対する審査報告書である総括所見を公表し、婚姻適齢の民法改正、子どもの貧困対策等に一定の評価をしつつも、包括的な差別禁止法の制定や体罰の禁止、児童の意見の尊重等について懸念を表明し強い勧告を行っている。

 

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