日時:1999年7月24日(土)
場所:岸記念体育会館
1. | 1999年度日本スポーツ法学会三部会合同研究会が7月24日(土)(14:00-17:00)に岸記念体育会館において実施された。テーマは「競技者を巡る法律問題」で司会は森川貞夫氏(日本体育大学)と山田二郎氏(東海大学)がつとめ、発表は太田章氏(早稲田大学)が「競技者の立場から」、牛木素吉郎氏(兵庫大学)が「ジャーナリストの立場から」、萩原金美氏(神奈川大学)が「法学者の立場から」、実務家の立場から菅野正二朗氏(弁護士)が「競技者の肖像権(パブリシティ)を巡る問題について」と題して行われた。 |
2. | 太田氏は、日本代表選手選考の不透明性を指摘した上で、特に団体スポーツでは監督の権限に選考が左右されることと、大学運動部の暴力事件は犯罪に相当し、スパルタ的な指導も法律の面から許されない場合があることに言及した。 また、体操の新しい技は著作権に相当するのではないか、新しい技をめぐるスパイ行為の事実、監督・コーチによる金銭横領、大学運動部の縦社会から生ずる問題等々について特に大学運動部が抱える諸問題を浮き彫りにした。 さらにレスリングのルールそのものに内在する矛盾や予選突破に絡んだ不正行為についても指摘した。最後に競技団体が上記のようなことを防ぐためにルールを変えていかなければならないことが強調された。 |
3. | 牛木氏はスポーツ団体の「独占事業体」的性格、アマチュアリズムの残存、プロスポーツの基盤という視点から、欧州・中南米のクラブとサッカー界では団体に加盟しなければ競技そのものが不可能で選手には選択の余地がないこと、日本体育協会のアマチュア規定の問題点はこれが競技者を統制する手段として使われたこと、クラブの選手に対する保有権についての検討を行った。 また、肖像権について、これを大手代理店に売って選手には金銭を渡さずに団体の懐に入れるのは、まさに裁判の問題になることを指摘した。プロの選手は請負契約か雇用契約のどちらに相当するのかといったことや、契約の仕方について日本と欧米との考えの違い(“resign”と”fire”)の違いが紹介された。 |
4. | 萩原氏は、競技者をめぐる法律問題は多面的であり、多様性を含んでいて、私法的側面、刑事法的側面、公法的側面という3つの側面からみることができるのではないかという考えを示した。また、これに加えて社会法・団体法的側面も考慮されなければならないとした。 また、スポーツの世界には前近代的、非近代的な法律問題と脱現代的な法律問題があり、国家法中心的・依存的思考があること、団体の中で紛争の解決を図ろうとする自主的な法を作ろうとしない体質が指摘された。そして、日本では「自治型法という名の管理型法」が主流になっているという批判が提示された。さらに、スポーツにおける法的紛争の正しい解決を図るためにはスポーツ団体の自治法が必要だとし、自分達が選んだ「オーダーメイド」すなわち、「民営スポーツ裁判所による紛争解決と具体的法形式」の裁判を追求しなければならないと強調した。 |
5. | 菅野氏は、プライバシー権とパブリシティ権という肖像権の二面性を指摘した上で、後者について、アメリカ法の発展過程を具体的に整理した。パブリシティ権を「プライバシーの制約は仕方ないにしても肖像権を勝手に商売として利用するのはおかしいと主張する権利」「自分の顔を自分でコントロールする権利」と位置づけ、特にアメリカの映画俳優とメジャーリーガーのパブリシティ権をめぐる不法行為に対する差し止めが認められた例を紹介した。 |
6. | さらに、団体スポーツとの間の団体と自分との間のパブリシティ権をめぐる問題で争われた例は日本ではないこと、そもそも団体登録と肖像権がリンクされていること、などが指摘され、プロ野球やJリーグの統一契約書を例示しつつ、パブリシティ権は団体に属するのか、個人に属するのかという点についての菅野氏の考察が示された。 質疑では、ドーピング問題の本質の所在や手続上の問題、契約の有効性、代理交渉をめぐる課題、紛争解決の具体的将来像、プライバシーとパブリシティとの関係性などについて、活発な議論が展開された。 |
(文責:中村祐司) |
夏季合同研究会
日時:2000年7月29日
場所:早稲田大学体育局会議室
(メモ:菅原哲朗)
司会:宮内孝知・坂本重雄
講演: |
(1)アメリカのスポーツ事故判例 | 諏訪伸夫 |
(2)日本におけるスポーツ事故判例 | 吉田勝光 | |
(3)ドーピングと法的問題 | 佐藤千春 | |
(4)スポーツ事故と対策・・・ ラクビーに即して | 日比野弘 |
1 日比野弘・・・現場からの問題点
過去10年、1989年から1999年の死亡・重傷事故は210件。ルール改正で、ヘッドギアを高校生19歳以下のプレーヤーははつける。
ノーコンテストのスクラムなしのプレー、ゲームの楽しみと勝利至上主義、ジュニアとシニアの完全分離、不幸な事故に立ち会い・裁判に証人に立つ。
2 質疑応答
中田先生・・・統計資料のデータの内容について質問。それに対して日比野先生は、死亡の資料は不明。日本のクラブは勝負はない。ラクビーは高校生から始めるのでチャンピオンスポーツとして怪我が多い。
萩原先生・・・ドーピングと傷害罪と承諾、強制捜査と任意捜査と分ける。起訴便宜主義と起訴法定主義。諏訪先生へ→懲罰的損害賠償はボランティアでは困る、危険の引き受け、ヘルメットのPL法、アメリカの輸入、ドーピングとPL法、連盟が認定して負けた例、臨床スポーツ法学会の科学的統計比較
事故安全マニュアルはラクビーとアメリカンフットボールが一番よい。防具のアメリカの製造会社が次々倒産した。アメリカはノクシという協会のヘルメットに警告シールで明示する。ヘルメットは頭部を保護するので、頸部を保護するもの。ルール改正もあった。トレーナーとドクターのチームが帯同している。ラクビーの事故はタックルとスクラムが多い。フロップの頸椎損傷。先生の指導者のここまではスクラム出来ないと思う。証人として指導者は過失が多いと言えない。
他、活発な質疑応答がなされる。
●活発に行なわれた公演と質疑応答● |
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平成14年3月15日(土)、ADR研究専門委員会の第二回研究会が、早稲田大学人間総合研究センター分室で開催された。
今回は、萩原金美委員長(神奈川大)による「スポーツADRをめぐる基本問題~司法制度改革審議会意見書に関連して」と題する報告と、竹之下義弘会員(弁護士)による「スポーツADRと法律相談・助言~ジュニアスポーツ法律アドバイザーシステムに関連して」と題する報告が行われた。
萩原会員の報告では、前半に司法制度改革審議会意見書におけるADRに関する議論に対する検討、後半にスポーツにおけるADRの可能性について意見を述べられた。
まず、わが国における仲裁の歴史を踏まえつつ、司法制度改革推進本部における「仲裁検討会」や「ADR検討会」の議論を振り返られた。そして、ADRに関する意見書の提言に関して、「裁判を利用しやすくすればいいのか?」「本当に費用はおさえられるか?」といった点について検討をされた。その中で、紛争処理が身近になった分処理件数が増え、裁判に替わるものとして費用が高騰したアメリカの例を引き合いに出され、批判的な見解を示された。また、意見書は法の支配を確立するという基本的理念を謳っているが、法の行政に対するチェック機能についてあまり言及していない点や、裁判(紛争処理)制度は社会観や未来観と関連してくる点について意見を述べられた。
次に、スポーツADRの可能性について、問題点や課題について検討された。その中で、スポーツ界がADRによる紛争解決の担い手になり得るのかについて、終了したばかりのソルトレーク五輪などを例に挙げ、体協などが制度的に作ったものはあまり機能しないのではないか、という見解を示された。そして、民間によるADRの必要性を説かれ、財政面や専門性、市民性、公正性といった課題を指摘された。また、スポーツ法学会としては、今後の司法制度改革の流れを踏まえながらスポーツADRの設計を模索し、当面は弁護士会による仲裁センターとの連携をすすめるべきとの考えを示された。
竹之下会員の報告では、まず、日本体育協会スポーツ少年団に導入されるジュニアスポーツ法律アドバイザーシステムに関して、導入過程の議論について紹介された。その中で、ADRとして立ち上げるには時期尚早ということで「法律アドバイザー」制度になったこと、まずは法律相談の形で始め、指導者研修の中に組み込んでいくことなどが紹介された。また、スポーツロイヤーの必要性を説かれ、現在では絶対的にスポーツロイヤーの数が少なく、今後育成する必要性を指摘された。
次に、日本オリンピック委員会(JOC)の仲裁研究会について、経緯や規則案、現在の議論の状況などについて紹介された。この研究会のメンバーには、本学会の菅原哲朗副会長と道垣内正人会員(東京大学)が加わっていること、そして、近いうちに最終的な報告案が作成されるという情報が提供された。
さらに、現在実際に活動しているスポーツADRに関する話題を提供された。日本弁護士連合会では、プロ野球の代理人問題をきっかけに、スポーツ・エンタテイメントプロジェクトと称してスポーツADRの検討をしていること、また、第二東京弁護士会では、専門仲裁の導入を検討していることなどが紹介された。
質疑応答では、スポーツADRの対象となる紛争や、弁護士法第72条との関係、ADRのメリット、これまでの弁護士会によるスポーツ仲裁といった点について活発な意見が交わされた。
次回の研究会は11月頃を予定している。
(文責 森 浩寿)
平成14年度の夏季合同研究会が、7月27日(土)に岸記念体育会館で開催された。うだるような酷暑の中、35名が出席をし、道垣内正人会員による「日本におけるスポーツ仲裁制度の設計」、NPO法人ジュース(JWS)の小笠原悦子代表による「スポーツと女性参加」、水沢利栄会員による「アメリカのスキー場のリスクマネジメント」という三報告が行われた。
道垣内会員は、日本オリンピック委員会(JOC)のスポーツ仲裁研究会のメンバーの立場から、現在設立の準備が進められている「日本スポーツ仲裁機構(JSAA)」の仕組みの概要について説明された。
まず、スポーツの世界で発生する紛争が、法律上の争訟とはなじまないと指摘され、裁判には時間や経済的負担がかかることから、代替的紛争処理制度としての仲裁の意義を解説された。そして、JOCのスポーツ仲裁研究会の設立の経緯や、現在構想されているJSAAの仲裁規則案などについて説明され、財源や仲裁人の選定といった現在の検討課題が示された。
小笠原悦子JWS代表は、スポーツにおける女性参加に関連して、歴史的概観から五輪夏季大会の出場者数、アメリカのタイトル・、第1回世界女性スポーツ会議におけるブライトン宣言や国連北京世界女性会議における北京行動綱領の内容と意義、さらにはJOC女性スポーツプロジェクト等について解説された。
第4回世界女性スポーツ会議が2006年に熊本市で開催されることが紹介され、アジアで初の世界女性スポーツ会議開催の意義や取り組みについて述べられた。そして、男女共同参画条例制定への積極的な関与や、スポーツに関わるすべての組織の意思決定機関での積極的な女性登用などを提言された。
水沢会員は、アメリカ・コロラド州にあり、全米でもリスクマネジメント対策が最も進んでいるスキー場の一つのウインターパークスキー場の取り組みについて、スキーパトロールの活動を中心にスキー場の安全管理に対する姿勢、救急処置の方法、事故発生時の対処法、事故の記録や違反行為の規制方法などについて法的、組織的な管理システムについて解説された。
コロラド州のスキー場では、スキー場が訴えられるという件数が1シーズン中に平均して約20件あるのに対して、ウインターパークスキー場は5件前後と非常に少なく、その理由として、単に安全対策に最大限の注意が注がれているだけでなく、スキー場が、日頃身障者を積極的に受け入れていることから、事故が起こっても訴えにくいという状況を作り出せているという実態が紹介された。
質疑では、各報告者に対して様々な質問が出され、活発な議論が交わされた。
(森 浩寿 記)
ADR研究専門委員会の第三回研究会が、十一月九日(土)に早稲田大学大隈会館で開催された。今回は、上柳敏郎会員(弁護士)が「千葉すず仲裁事件の経験から日本のスポーツ仲裁を考える」という報告を、出井直樹弁護士が「スポーツADRと弁護士会の取り組み」について報告された。
上柳会員は、まず、日本水泳連盟の代理人として千葉すず仲裁事件に関わった立場から、事件の発端となった原処分から仲裁判断までの一連の流れについて解説された。CASの仲裁には、一般仲裁(ordinaly procedure)と上訴(appeal procedure)があり、この件では、CASの判断で後者が適用されたこと、緊急性のある事件ということで単独審判になったこと、申し立てには損害賠償も含まれていたが、審査対象は選考しなかったことのみになったことなどが紹介された。
最後に、上柳会員は、この事件が日本の司法制度や弁護士の機能と信頼性に対して問題を提起したこと、今後の他のスポーツの各種選考における判断基準とその公開のあり方等について大きな意義があったことなどを指摘した。
出井弁護士は、まず始めに、弁護士会のADRへの取り組みとして、日弁連の活動や各弁護士会による仲裁センター設立の動き、活動などについて説明があった。そして、二〇〇一年には日弁連の中にADRセンターが設置され、単位会活動を全国に拡げること、司法制度改革議論のバックアップ、他のADR機関との連係といった活動内容が紹介された。
スポーツADRについては、・スポーツ事故損害賠償、・出場資格、競技中の判定、ドーピング判定などを巡る紛争、・プロにおける報酬契約、報酬金額を巡る紛争、・選手を巡る諸契約に関する紛争、・組織内部の各種トラブル、などがその対象範囲として挙げられた。
次に、これまでの弁護士会ADRでの取り扱い実績として、第二東京弁護士会仲裁センターにおける事故を巡る紛争や実業団の移籍を巡る案件が紹介された。また、日弁連のADRセンターにスポーツ・エンターテーメントプロジェクトチームが設置され、現在制度設計が図られていることも報告された。
最後に、スポーツADRの課題として、専門性の問題やいかに案件を取り込むかといった問題を挙げられた。また、一般的にADRは費用がかからないと思われているが、スポーツADRに限らずADR全般に通じることとして、民間ADRは高額になること、スポーツADRでは基本的に個人が当事者になるので費用の問題が重要になると指摘された。
質疑では、上柳報告に関してはCASの仲裁手続きに関して細かな質問が集中し、出井報告に対しては、スポーツADRのあり方や制度設計といった話題から日本のプロ野球を巡る諸問題にまで拡がり、いずれも活発な議論が展開された。
二〇〇二年夏季合同研究会における道垣内会員の報告にもあったが、四月には日本スポーツ仲裁機構(JSAA:Japan Sports Arbitration Association)が創設され、いよいよわが国においてもスポーツADRが始動する。しかし、JSAAの対象範囲は限定されていて、すべての紛争がたいしょうとなってはいないので、今後、本研究会では、学会としてスポーツADRにどう関わっていくのか、スポーツADRを巡る問題点の整理、いかに普及させていくかなど、幅広く議論をしていきたい。
森 浩寿(日本大学)記