「スポーツ基本法要綱案」(1997年)
スポーツ基本法要綱案
一九九七年一二月二〇日 日本スポーツ法学会
前文
スポーツは、国民の文化、教育、健康を、社会生活にとっての基本的な要因として寄与してきた。国民が自由な人格を形成し、健康で文化的な生活を営み、余暇を過ごすために、スポーツには、重要な役割が期待されている。
すべて国民は、自らの幸福を追求するためのスポーツに関する権利が保障されなければならない。この権利の確保とスポーツの発展のために、国、地方公共団体、各種スポーツ団体およびスポーツに参加するすべてのものは協力し、必要な措置を講じなければならない。
ここに、スポーツに関する権利および義務の基本を明示して、新しい日本のスポーツの基本を確立するために、スポーツ基本法を制定する。
一 スポーツに関する権利
(一)すべて国民は、ひとしくスポーツに関する権利を有し、生涯にわたって実際生活に即し、 スポーツに参加する自発的な機会が保障されなければならない。スポーツに参加するものは、人種、信条、性別、出生、社会的身分、経済的地位、障害の事情な どにより差別されてはならない。
(二)スポーツに参加するものは、すべて自由であり、つねに公正及び安全が確保されなければならない。
二 国および地方公共団体の義務
(一)国および地方公共団体は、国民のスポーツに参加する権利を保障するために、スポーツの振興にとって必要な組織、財源、安全、施設、教育、指導者、競技水準の向上、研究などの諸条件を整備する義務があり、そのために必要な実施計画を法令により定めなければならない。
(二)国は、スポーツを専門に主管する行政機関を設置し、スポーツに関する総合的な行政政策を行わなければならない。
(三)国および地方公共団体は、スポーツ施設の建設および利用を法令により定めなければならない。
(四)国および地方公共団体は、学校においては体育およびスポーツの機会を保障し、地域・職場においてはスポーツの機会を保障し、また相互に連携を深めなければならない。
(五)国および地方公共団体は、スポーツの振興と発展のために、資格を有する専門職員をおかなければならない。
(六)国および地方公共団体は、スポーツの指導者の資格を認定し、研修、養成を行い、その身分を保障しなければならない。
(七)スポーツの条件整備に関する国と地方公共団体との関係は、法令によりこれを定める。
三 スポーツの保護
(一)スポーツは、政治的、商業的または金銭的な弊害から保護されなければならない。
(二)スポーツに参加するものは、正当な理由なしに、その自由、安全および財産を制限されてはならない。
(三)スポーツについて紛争が生じた場合には、スポーツに参加するものの公正を確保するために、当事者に対する紛争処理制度を設けなければならない。
四 スポーツ団体の権利と義務
(一)スポーツに参加するものは、自ら選択するスポーツ団体を設立し、これに加入する権利を有する。スポーツ団体はその必要に応じて法人として設立されることが認められなければならない。
(二)スポーツ団体は、その構成員のスポーツに関する自由、公正および安全の権利を確保しなければならない。
(三)スポーツに関する国内機関を設置し、その国内機関は、スポーツの独立と自治を確保するために、それぞれのスポーツ団体の代表から構成されなければならない。この国内機関と国および地方公共団体との関係は、法律によりこれを定める。
(四)それぞれの国内競技連盟は、そのスポーツ種目の発展のための諸条件を整備し、必要な規約の整備に努めなければならない。
五 スポーツの安全
(一)スポーツに参加するものは、常に安全に配慮して行動しなければならない。
(二)国、地方公共団体、および各種スポーツ団体は、スポーツ事故防止し、また、事故の救済のための万全な対策を行い、スポーツの安全な環境を提供しなければならない。
六 スポーツと環境
(一)スポーツは、自然、都市計画、地域社会などの環境との調和に配慮して行わなければならない。また、スポーツ施設は環境に配慮して建設しなければならない。
七 スポーツに関する国際協調
(一)スポーツには、国際的な協調を必要とし、国は、広く諸外国において承認されているスポーツに関する権利宣言を積極的に受け入れ、国内政策に反映させなければならない。
八 法令制定義務
(一)この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。
九 スポーツ振興法との関係
(一)スポーツ基本法の施行後、スポーツ振興法の各条項に関する制度上の改革が行われなければならない