会長挨拶

早稲田大学の棚村でございます。2022年12月10日慶応義塾大学において開催されました第29回スポーツ法学会総会におきまして、私は、齋藤健司前会長の後を受け、みなさまから第11代日本スポーツ法学会会長・理事長に選出していただきました。2013年に、私は、浦川道太郎先生(現早稲田大学名誉教授)、望月浩一郎先生(弁護士・元会長)、白井久明先生(元副会長)からのご推薦により本学会に入会させていただき、新参者ながら理事も務めさせていただくことになりました。当時スポーツには関心がありながらも、スポーツ法学には全くの門外漢の私を快く受け入れてくださり、学会や研究会の場での的違いな質問にも快く答えていただき、いつしか本学会の自由闊達な雰囲気がとても居心地がよく、このように長居をすることになった次第です。他の学会と比べても、このような自由でオープンな本学会の雰囲気や精神的な風土をこれからも守り続けてゆきたいと思っております。

ところで、日本スポーツ法学会は、齋藤前会長によりますと、1992年の創立当時約20名の賛同者によって設立が準備され、当初はこじんまりとした学術団体として発足いたしたようです。本学会は、会則3条にもありますように、スポーツ法学の発展及び研究者相互の協力を促進し、内外の学会との連絡及び協力を図ることを目的として、学術大会や夏季合同研究会などの各種の研究会の開催、年報(紀要)の発行、スポーツ基本法の制定、暴力根絶宣言、子どものスポーツ権の確立など各種の重要な宣言・提言も発表してきました。また、本学会は、この30年を経て、スポーツに関わる研究者、弁護士などの実務家、スポーツ団体関係者など400名を超えるじつに多様な会員から構成される日本学術会議協力学術研究団体へと大きく成長発展して参りました。

とりわけ、本学会では、アンチ・ドーピング体制の整備、アスリートの権利、スポーツとジェンダー、競技団体の民主的運営、オリパラの法的課題、スポーツ基本法施行10年、スポーツ事故の補償などの最近のスポーツ法学における基本的かつ重要な問題について理論的実務的に深く掘り下げながら、具体的かつ有益な提言を行って参りました。また、最近は、若手研究者の育成の観点から、学会奨励賞を設けたり、学会運営の透明性・公平性を期すための会則・各種規程の改正・整備などガバナンス・コンプライアンス改革も進め、ダイバシティ―&インクルージョン宣言をするとともに、女性会員・女性理事等の割合を高め、組織の活性化と学会活動のさらなる活発化を目指す積極的な動きも展開しています。さらに、国際学術交流にも力を入れ、これまでの韓国スポーツ法学会、中国体育総局などのアジアスポーツ法学会とのコラボレーションだけでなく、ANZSLA(オーストラリア・ニュージーランドスポーツ法学会)、SLA(米国スポーツ法学会)、BASL(英国スポーツ法学会)などともMOUを締結し、世界に広がるスポーツ法学の国際学術交流を推進しています。

昨今は、残念ながら、新型コロナウィルス感染症の蔓延で1年延期して開催された東京オリンピックをめぐり、組織委員会元理事による大会スポンサーの選定に関する巨額贈収賄に関する五輪汚職事件、元組織委員会大会運営局次長と大手広告会社らのテスト大会及び本大会をめぐる独禁法違反の談合に関わる五輪談合事件などが次々に明るみに出て、多数の関係者が逮捕起訴されるという前代未聞の不祥事も起こっています。その結果、札幌での2030年の冬季五輪・パラリンピックの招致活動に、早くも、暗雲が立ち込めています。また、学校での運動部活動についても、運動部活動の在り方に関する総合ガイドライン、学校の働き方改革を踏まえた部活動改革、運動部活動の地域移行など、学校と地域が協働・融合した形での地域におけるスポーツ環境整備を進めることができるかなども、喫緊の課題となっています。

以上のように、スポーツの世界では、大規模な国際国内大会または大会組織委員会等のガバナンス・コンプライアンス体制の再構築、多様な主体におけるスポーツの機会の創出、スポーツを通じた共生社会の実現、スポーツにおける人権侵害・暴力・虐待・ハラスメントの防止・事故防止等の安全・安心の確保、スポーツによる健康増進と超高齢社会、スポーツ界におけるDX化、スポーツの成長産業化、スポーツによる地方創生とまちづくりの推進、国際競技力の向上、ウクライナ情勢など国際紛争とスポーツ、スポーツとインテグリティ、スポーツとSDGs、スポーツ基本法の見直しなど、本学会でも取り上げるべき課題は山積しており、本学会に対して期待されているところは増大の一途をたどっています。

そこで、本学会としましても、スポーツを育み、スポーツであつまり、ともにつながり、スポーツに誰もがアクセスでき、スポーツをする人、見る人、支える人すべてがその「楽しさ」「自発性」「喜び」を感じられ、スポーツそのものが有するウェルビーイングへの価値、スポーツが社会の活性化に寄与する価値を最大限保障すべく、スポーツの世界に「法の支配」を実現し、スポーツを通じた文化・社会・平和の創造に資するように活動したいと思います。そのためには、本学会は、高い志と高邁な理想をもち、スポーツを通じた平和で安心・安全な組織・社会・世界の創出に向けて強い意欲のある多くの皆さんに参集していただき、その叡智を結集して、私たちの壮大な夢をかなえるために是非ご一緒したいと心待ちしております。

2023年2月11日

早稲田大学法学学術院教授  棚村 政行